Collins 51S-1


語り尽くされた感のあるこの受信機ですが,数ある受信機の中で今でも人気・実力とも上位にランキングされています.

51S-1は1980年代の後半まで僅かながら生産が続けられました.使われている部品からこの1台は1970年に製造されたものであることがわかります.メインダイアルを固定する「ダイアルロック」と,フライホイール効果のある「ウェイテッド・スピナー・ノブ」が装備された後期型です.

コリンズお得意のμ同調により,メインノブひとつで目的の周波数に完全にトラッキングされます.一方アマチュア用の75Sシリーズではフロント・パネルに「PRESELECTOR」のツマミを設けてあり,トラッキングは人間の手に委ねられています.75Sシリーズでは水晶発振子を入れ替えることにより,運用周波数(一部を除いて)を自由に設定できる設計になっているため自動的なトラッキングができませんね.

本体に比べて大きなエスカッションにはMHz台と百KHz台を示すカウンタ・ダイアルのウィンドウがあります.

今まで3台の51S-1を所有してきましたが,程度のいいものでもフロント・パネルに多少のタッチアップ(特にトリムリングとの境)が必要でした.またエスカッションもキズが付きやすい部分のひとつです.最後に入手したこの個体はオリジナル・ペイントが完璧な状態で維持されています.米国政府機関でバックアップ用としてストックされていたものなので,実際にされた時間が短かったためだと思います.

業務用に使われた51S-1のメータは,信号入力(Sメータ)とラインオーディオ出力を切り替えて示すことができます.前期型からずっとハネウェルの製品が使われてきましたが,一部にはSラインと同じシンプソン製も使われました.フルスケールが200μAのこのメータの取り扱いには注意したいものです.電源投入直後の数十秒間,「STBY」のポジション」で待機しますが,このときメータが右側に振り切れた状態になります.これを防ぐにはメータ・スイッチのポジションを「ラインオーディオ出力」側にしておくとよいでしょう.

またメータ照明用のランプも回路の一部として動作しているので,指定品(44番球)以外を使うとPTOの発振周波数が変わってしまうなどの不具合が発生します.お勧めしませんが,マーカ信号にゼロインした状態でダイアルランプを引き抜くと確認できます.電源トランスにはAC6.3Vのヒータ巻き線がありません.代わりにAC25.2V(6.3×4)の巻き線が用意されています.つまり4本分のヒータ回路を直列に接続し,両端に25.2Vを加えているのです.まるで5球スーパーのようでおもしろいですね.

こちらが3号機で,Sラインと同じシンプソン製のメータが使われています.51S-1はメータフェースの文字を裏側から照らし出す構造(バックライト)ですが,ムーブメントの影がメータフェースの下半分に映ってしまいます.この点ハネウェルのメータは最初からバックライトを考慮してあるので,全体がほぼ均一に照らし出されます.

ちなみに51S-1のメータは,中期までがハネウェル,後期がシンプソン,またはバートレット・エマリーが使われています.

51S-1で使われているウェイテッド・スピナー・ノブです.スカート部分が真鍮で出来ているため,大きなフライホイール効果を得ることができます.
マウスポインタを写真に重ねると分解したところをご覧いただけます.

ウェイテッド・スピナー・ノブには,下の写真のようにハブの周囲に錘を入れるタイプの「簡易型」も純正で存在します.国内の専門店でも同じ仕組みの錘が販売されていますね.
マウスポインタを写真に重ねると分解したところをご覧いただけます.

各スピナーノブの重量を家庭用デジタル計量器で量った結果を以下に示します.最近出回っている「英国製の複製品」の重量は240gだそうで,これだとちょっと重すぎると思います.

スピナーノブの重量比較 (単位:グラム)
標準型 39
簡易型ウェイテッド 114
標準型ウェイテッド 160

写真個体はシャーシ全面がイリダイト処理により黄金色に輝いています.最後期にごくわずかだけ生産された貴重な一台です.内部は狭いシャーシの上に17本の真空管がひしめいており,発熱量も相当なものです.特にオーディオ出力管の6BF5は,ケース蓋の裏側が茶色く変色してくるほどチンチンになります.

標準で付いてくるシールドの放熱効果は残念ながらあまりよくありません.できればIERCに交換したいところです.また最後期に製造されたエスイチは,真空管ソケットのいくつかがシールドケースを取り付けるためのフランジが無いタイプになっています..

この受信機を上手く使うにはシャーシに設けられた「RCVR GAIN」をこまめに調整してやる必要があります.ハイバンドで最良点に調整し,そのままローバンドにQSYするとバンド内がワサワサ騒がしく感じるかも知れません.またAGCのリリース時間が短すぎるため,SSBやCWを受信時には混変調を起こしているかのように錯覚することがあります.

2本のメカニカル・フィルタと1個のクリスタル・フィルタが使われており,写真のケースに中に収められています.SSB用は帯域幅2.75KHzが標準で,仕様によっては2.4KHzが実装されているものもあります.CW用は社外品(McCoy Electronics)で800Hzが標準になり,別途300Hzをオプションで選択できました.同様にAM用として6KHzのメカフィルが用意されていました.ストック状態のAMは,2段の複同調IFTによる5KHzの通過帯域幅となっています.エスイチの素直なAM受信音の秘密はここにあったのですね.この帯域はIFTの調整によって8KHzくらいまで自在に設定できます.SB#2にこれらIFTをメカフィルに置き換える方法が説明されています.

最後期はアルミの表面処理が「イリダイト」になり,最終的にはフロントパネルにロックウェル・コリンズのエンブレムが付きます.

究極のPTO「70K-7」です.75Sシリーズの「70K-2」とほぼ同じサイズですが,周波数変化量は5倍の1MHz(2.5~3.5MHz)を実現しています.安定度や直線性も「Eシリーズ」は言うに及ばず,「Hシリーズ」と比較しても遜色ありません.

特にダイアル・エラー(ダイアル目盛と発振周波数とのズレ)調整に関して言えば,75E-15や70H-12などの旧型PTOでは調整用スラグにアクセスするために装置の大がかりな分解が必要になるのに対して,この70K-7はスラグ(L502)がPTOのケースの上面に位置しているため,その保守性には雲泥の差があります.Hi

この頃になると一部残っていたペーパコンも姿を消し,オイルコンだけになりました.これらの配線を「ゴチャゴチャ」と形容する方も居られますが,M2なんかに比べればスッキリしたものです.

バンド切替ノブに会わせて回転する特徴的な「ターレット」部分です.このギミックはハマーランドの「十八番」でしたっけ?いずれにせよターレットのお陰でこの大きさに収まった訳で,その功績は非常に大きいと言えます.

実際に動作しているグループはシャーシの奥の方になるため,調整には専用の調整棒が必要になります.ターレット調整の醍醐味は,バンドを変えたときにキャリブレータのゼロビート位置が狂わないように局発の周波数をピッタリ合わせ込むことでしょうか.

背面パネルには・・・

スペア, プリセレクタ(55G-1)接続端子, サイド・トーン, 600Ω不平衡ライン出力, 4Ωスピーカ出力,IF出力, 外部ゲイン制御, ミュート, アンテナ入力 などの端子が設けられています.

一番右側に配されたアンテナ入力端子はSライン同様RCAコネクタになりますが,この受信機の性格を考えるとBNCやN型ではないことが不思議に思えてなりません.

スラグラックのカバーにはターレット調整用のチューニング・ツールがセットされていますが,抜き取られている場合が多いようです.ツール自体はファイバー製の頑丈な造りです.

コリンズでは技術的改修(EC:Engineering Change)やオプション・パーツの組み込み方法などの技術情報を,「サービス・ブリテン」として提供しています.51S-1に関してはこれまで8種類のSBが発表されています.そのうち5種類が「※性能向上を目的としたEC」となっています.これらのサービス・ブリテンやマニュアルは専門店などでも販売されていますが,まったく同じ内容のものを「CCAのHP」からダウンロードできます.
SIL7-63 - 28V-DC電源使用時のハム音低減
SB1 低レベルオーティオ段の不要信号混入抑制と配線変更
SB2 T14, T15のメカフィルへの置き換え方法
SB3 ローバンドにおける受信感度の改善
SB4 ダイアルロック機構の取り付け方法
SB5-1 51S-1A/1AFから51S-1/1Fへのコンバート方法
SB5-2 51S-1/1Fから51S-1A/1AFへのコンバート方法
SB6 高速なミュートおよび受信復帰
SB7 500KHzのスプリアス改善

こちらはウィング・マークが付いた1台目のエスイチです.1985年に新潟にあるサープラス・ショップ(今はオーディオが中心)で購入しました.丸マークのものも同じ値段で置いてあり,双方とも韓国からの輸入品とのことでした.お店の奥でアンテナを繋がせてもらい半日近く悩んだ末に,結局程度が多少良かったこのウィング・マークを選びました.

内部の様子はPTOの発振管に被せられたシールドのタイプが変わったくらいで,後期型とほとんど変わりませんが,2.75KHzのSSB用フィルタを持ったこちらの方がより自然な音を出します.

1号機に最初に付いていたエスカッションはキズだらけで,KHzダイアルにも擦れた跡があったので,新品をカナダから取り寄せて交換しました.オリジナルのダイアルはアルミでしたが取り寄せたダイアルはプラスチック製でした.これだけでフロントの表情がかなり引き締まりました.米国のロックウェル・コリンズ本体は保守部品をなかなか出してくれませんが,海外のブランチでは意外と簡単に部品を分けてくれたりします.75A-4のダイアルは ドイツのロックウェル・コリンズ から取り寄せました.

楽々指先チューニング
コリンズのゼネラル・カバレッジ受信機シリーズの最新機51S-1は・・・
1KHz以内の驚異的な周波数読取り精度による確実な待ち受け受信を可能にし,最高の受信感度とコリンズのメカニカル・フィルタが可能にした優れた選択度により困難な状況下でも優れた受信性能を発揮します.オールインワン型でありながら軽量コンパクトなサイズで設置も簡単です.詳細は資料をご請求下さい.(1961年の雑誌広告から:超訳)

ついでなので「Sライン」もここに載せておきます.これはラインを構成する受信機,75S-3(C)です.周囲を驚かせるような技術は75A-4までで出尽くしてしまった感があり,取り立てて説明すべきギミックは見つかりません.バンドを200KHzに割ってしまうなど,アマチュア無線用としては使いにくい仕様となっています.

内部はスッキリした造りですね.75S-3B/Cは後期のウィング・マークからメカフィルにハム軽減のためのシールド・カバーが付くようになりました.それにしてもコリンズのアルミシャーシは,何十年経ってもキレイな状態を維持しており感心させられます.

最近アンモニア水でアルミの表面を溶かして,シャーシの光沢を取り戻す手法が流行りのようです.長年腐食から守ってくれていた大切な表面処理部分を取り去ってしまうとは,思い切った事をするものだと関心しております.空気中の酸素との接触で,自然にできあがった心許ない酸化膜だけのシャーシの数年後は…えっ,また溶かすの!?

冗談はさておき,気になるのは電源トランスの右側に鎮座する最終増幅段となる6BF5の存在.取り扱う信号のレベルが高くなっているとは言え,トランスからのリーケージフラックスをまともにかぶる場所に置かれています.75S-1の時代ならともかく,3B/3Cあたりでは51S-1よろしくシャーシの裏側でトランジスタ増幅(初段だけですが),なんて訳にはいかなかったのでしょうか?

シールド・カバーの内側は合計で4本のフィルタが装着できるようになっています.

このセットにはCW用として200Hz(X455KQ200)を,SSB用として2100Hz(F455FA21),2700Hz(F455FA27)の2本を入れています.

言わずと知れたペアの送信機「32S-3(A)」ですね.ドライバ段からNFBが掛けられているのが特徴です.その甲斐あってかバランスのよい音を出します.国産のトランシーバでもTS-820などは終段に無調整式のNFBが掛けられていましたね.正しく調整するには相当の知識と経験が必要で,コリンズ専門を名乗るショップでもNFBの調整技術がなかったりするので驚いてしまいます.

32S-3Aは通常の32S-3に局発のバンク切り替えスイッチと太めのアイブロー(ドライバ段の調整ツマミと終段調整ツマミのスケール)が付いただけなのですが,末尾にAが付くだけで値段が2~3倍(米国でも!)に跳ね上がります.値段が高いからと言ってバラモジが7360になっているとか,312B-4の重たい針がバンバン振れるよになっているとか,そんなことは何ひとつありません.メリットと言えばWARCバンド用の水晶を入られることくらいでしょうか.商業ユースでこそ本来のメリットが発揮されるのでしょう.

外部から電源を供給するため内部にトランス類はありません.シャーシ上面のクリスタルバンクはセカンダリで,プライマリのバンクはシャーシ下面に移動しています.シャーシ全体の1/3程度を占めるシールドボックスにはドライバ段以降の回路が入っています.

NFBによるハイバンドでの出力低下は避けられませんが,「軽く使う」と送信音に本来の特徴がより色濃く反映されます.どんな送信機でも定格の半分程度に出力を抑えて使えばとてもきれいな電波がでますが,コリンズも例外ではありません.グリッド電流が流れるまでマイクゲインを上げないことが肝要です.

写真左上に移設されたプライマリの水晶バンクを見ることができます.水晶発振子が下を向くため,アルミ板でできた「脱落防止カバー」が付きます.